今回が今年のクライマックスかと。
予告で副題を見てオイオイ、やりすぎで狙いすぎだろ(笑)と思っていましたが…。
見るまでは…
歴史の事実として小野但馬守政次の死は避けられないものと認識はしていました。
前回のなつへの「ぷろぽおず」もフラグを立てまくっていたので、ガ○ダム的だな(笑)と思ってニヤニヤしていましたが(音楽が菅野よう子さんだし)、今回の放送を見て、これまでの茶化した視点が一掃され、いい意味で期待を裏切られました。
小野の本懐
この8か月、政次はとても丁寧に描かれてきました。
子ども時代、父の政直の姿を見て、自分は父のように井伊に仇なすようなことは決してしまいという潔癖さを持っていた政次。
家督を継ぎ、今川館に出入りするようになって現実を知り、綺麗事では井伊を守ることはできないと悟り、例え当主を犠牲にしてでも井伊を存続させるために打てる手を打つ冷徹さを身に付け、一時は完全に直虎と対立し、井伊に仇なす者として描かれます。
しかし、政次の心の中は、子どもの頃より変わることのないおとわへの想いを抱いたまま、例え蛇蝎のように嫌われようとも、ただひたすらに井伊を守るために、その知略の限りを尽くす。
いつしか言葉は交わさずとも、直虎と心は通じ合い、表向きは対立しながらも、共に井伊を守るために奔走することができるようになる。
不器用ながらも、愚直にただ一心に生き抜いた姿だったと思います。
頭の助けを断る政次。
「殿や俺は逃げればいいかもしれぬ。
しかし、恨みが晴れなければ、隠し里や寺、
虎松様、民百姓、何をどうされるかわからぬ。
そして、井伊にはそれを守り切れるだけの兵はおらぬ。
俺一人の首で済ますのが、最も血が流れぬ。」
どこまでも井伊のために最も良い手は何かを、
そしてそのために自らを差し出す政次。
頭に、このまま裏切り者として裁かれてしまっていいのか?
井伊のために誰よりも駆けずり回っていたのにいいのか?と問われ、
「それこそ小野の本懐だからな」と返す政次。
「忌み嫌われ、井伊の仇となる。
おそらく、私はこのために生まれてきたんだ。」
父の姿を醜いと唾棄し、己は決してそのような道を進むまいと思っていた鶴。
「お前はいずれ、私と同じ道を歩むことになる」という父、政直の予言通り、政次は小野としての役目を全うしました。
俺には分からないと政次の前では言っていた頭。
しかし、政次が流されて小野の使命に翻弄されているのではなく、
自らの遺志でその道を選んだことは伝わっていました。
家に振り回され、踏み潰されてきた政次が、忌み嫌われ、井伊の仇となることの何が本懐なのか。
「井伊ってのはあんたなんだよ。
あの人の言う井伊ってのは、あんたのことなんだよ!
小野って家に生まれたことで振りまわされたかもしれねえ。
つらい目にも合ったかもしれねえ。
けどそんなもん、その気になりゃ放り出すことだってできた。
そうしなかったのは、あの人がそれを選んだからだ。
あんたを守ることをえらんだのは、あの人だ。
だから本懐だって言えんでさぁ。」
そう、鶴はおとわを守るという想いのためだけに、生きてきました。
「守ってくれと頼んだ覚えは一度もない!」
頼まれていないからこそ、政次にとっては大事な想いなのでしょう。
人知れず守ると決めたその志を果たすために。
直虎と政次が逃げた後、井伊谷の地が不幸に見舞われたら、直虎は激しく後悔し、決して自分を許すことができないでしょう。
そうならないために、おとわを守ることが鶴にとっての本懐。
無口でポーカーフェイスの鶴にできる精一杯の、おとわへの想いなのでしょう。
しかし、鶴が欠けることもおとわにとって痛みになることに思い至らないところが政次の朴念仁たるところなんだよなあ。
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散りゆく命の使い方
直虎に託した白い碁石。
その意味について、直虎は思いを馳せます。
和尚さまに政次の意図を尋ねるも「誰よりも、あやつのことが分かるのは、そなたじゃろう。答えはそなたにしか分らんのではないか?」と返され、政次のためにできることを考えます。
「我をうまく使え。我もそなたをうまく使う」
かつて反目しあっていた時に政次に伝えた言葉。
「我もそなたをうまく使う」
すでに囚われの身となり、もはや生き延びることは望めない政次。
その風前の灯火となった政次を、どのようにうまく使うのか…。
政次の最期を告げにくる和尚。
「政次が逝くというなら、私が送ってやらねば…。我が、送ってやらねば…。」
直虎の中で、何かの決意が生まれていました。
奸臣として果てるも…
牢から刑場へと引っ立てられる政次。
その場には直虎も臨席していました。
無言で視線を交わす二人。
死にゆく者は守るべき女に、言葉ではない何かを遺してゆくのでしょうか。
磔台に縛られ、そしていざ刑が執行されるとなったその瞬間!
槍を奪い、政次の下に走り寄る直虎!
そして…。
「地獄へ堕ちろ!小野但馬!」
まさかの直虎の手によって、政次はその身を貫かれます。
「ようもここまで我を欺いてくれたな!
遠江一、日本一の卑怯者と、未来永劫語り伝えてやるわ!」
「笑止。
未来など、もとより女子頼りの井伊に、未来などあると思うのか!
生き抜けるなどと思うておるのか!
家老ごときに容易く謀れるような愚かな井伊が、やれるものならやってみよ!
地獄の底から、見届け…」
もはや救うことのできぬ政次の命。
なれば、その命、井伊のために、最大限、うまく使うために裏切り者として断罪するしか打てる手がなかった。
小野の本懐が井伊を守るためなら、井伊は、その小野の想いを無駄にせぬため、例え望まなくとも、小野但馬守政次を貶め、それを成敗することにより、自らの不始末の決着を、対外的に示さなければならなかったのでしょう。
直虎の手かかった時の政次の笑みは、自らの命を最大限効果的に使った直虎の手腕に、井伊の行く末の希望を託せたことの喜びがあったのではないでしょうか。
白黒を
つけむと
君を
ひとり待つ
天つたふ日そ
楽しからすや
政次