ガイアの夜明け、巨大規制に挑むバター編。
1年2か月ぶり(2017年6月13日)のバターネタが放送された。
前回の内容もかなり衝撃だったが、今回もなかなか根の深い問題を掘り下げている。
あくまで、テレビ東京が規制に立ち向かう側の視点で取材をしている内容で、農協側のコメントは取材拒否のため取れていないことを踏まえておく必要はある。
日欧経済連携協定で潮目が変わるか?
今年の7月、EUとの経済連携協定(EPA)が締結され、来年から発行される。
アメリカトランプ政権が保護貿易を進める中で、TPPに続き、欧州との経済連携を深める協定として注目されている。
これにより、ヨーロッパからの輸入品にかかる関税が撤廃されたり、大幅に引き下げられたりする予定である。
国産バター価格は高いのか?
しかし、バターについては、ほぼ据え置かれるということだ。
バター価格の参考として、フランス産バター250gは現地では約460円(そこそこ高級なものと思われる)。
それが日本では2200円(税別)以上で販売されている。
他のバターも概ね、4倍の価格で売られているようだ。
日本の国産バターは200gで約435円。
ここ10年で約4割価格が上昇している。
同量で見ると、フランス産は現地で1㎏約1840円(輸入されると約8900円に消費税)。
日本の国産バターは、1kg約2200円で、やはり国産は少し高いようである。
酪農先進国のデンマークやオーストラリアのコンサルタントは品質は高いと言っているので、ある程度高いのは仕方ないのかもしれないが、味のバリエーションが少ないなど、本場の人から見ると不満点も少なくない。
国内でバターは不足していない?
国産バター高騰の一因に品不足が取り沙汰されるが、農林水産大臣の見解では「平成26年(2014年)以降、バターの供給不足は発生していない」という認識のようだ。
だが、2014年以降も毎年バター不足で緊急輸入(1万トン以上)をしているというニュースが何度も流れていて、その発表も農水省がしているのだから、整合性が取れていないのはどういうことなのか?
実際、業務用バターについては、手に入りにくい状況が続いているようで、ベーカリーなどではバター調達に苦慮していると紹介されていた。
生乳出荷先は指定団体とMMJ
酪農家が搾乳した生乳を出荷する先は、以前は全国に10ある指定団体しかなかった。
前回の放送(2017.6)でミルクマーケットジャパン(MMJ、本社群馬県伊勢崎市)が指定団体よりも高い買い取り値で生乳を生産者から買い取り、指定団体よりも安い値でメーカーに卸す取り組みをしていると紹介されていた。
生乳買取価格
昨年の放送では、MMJが92.5円/kg、ホクレンが90.6円/kgで買い取っていると紹介されていた。
今回の放送では双方ともかなり値上がりしており、MMJが102円/kg、ホクレンが96円/kgとなっていた。
前回も紹介されていた酪農家は月に200トンの生乳を出荷していたので、MMJだと月に200万円、以前より買い取り値が上がっている。
おそらく飼料代などコストが上昇しているので、買い取り値が上がったのだろうが、それでも同量でこれほど大きく収入が増えるのは酪農家にとっては望ましいことだと思われる。
指定団体から乳業メーカーへの報復的措置
MMJから生乳を購入して加工しているメーカーが取り上げられていた。
福島県の福島乳業という乳業メーカーだが、ここは指定団体である東北生乳販連とMMJから生乳を仕入れていた。
MMJから仕入れた生乳でヨーグルトの製造を行っていて、2017年の3月から、MMJから仕入れた生乳で、ブランド牛乳を商品化する予定だった。
その矢先、地元の新聞の取材で、MMJから生乳を仕入れることを語ったら、東北生乳販連から生乳の購入代金の支払いを前払いにするように言われたという。
生乳代金の支払いは、購入量分を後払いで支払うのが通例だが、この会社は翌週に入荷する分の代金を先に払うように求められたというのだ。
それまですでに東北生乳販連に1.7億の借金のあった同社は、前払いになると資金繰りが厳しくなるので、借金返済の支払猶予を求めた。
そして2017年2月14日、東北生乳販連より、「債権譲渡担保権設定契約書」へのサインを求められた。
これは、取引先からの売上金を東北生乳販連が担保にとるという内容のもの。
それにより、借金返済の支払猶予が認めらるとのことで、福島乳業の社長はこの契約書にサインをした。
しかし、3ヵ月後の5月23日、福島乳業の取引先152社に対して、東北生乳販連より「債権譲渡通知書」が配布され、売上金のすべてを借金の返済金として東北生乳販連が回収した。
福島乳業は売上金すべてが手元に来る前に回収されたため、資金繰りが悪化。
2017年12月22日に東北生乳販連に前払い金で余分に入金していた代金約1200万円の返還を求めるも、東北生乳販連は借金と同額を先に支払えば返金するとして先払い代金の余剰分の返還には応じなかった。
独禁法違反が疑われる報復措置
そもそも借金全額を支払える能力があるのであれば、前払い余剰金の返還を申し出る必要はないわけだから、東北生乳販連は福島乳業を潰す気であることは明らかである。
福島乳業側もMMJとの関係で報復されているという認識を持っており、そのことを告げるも、東北生乳販連の専務は報復を否定。
客観的に見て、報復以外のなにものでもないが、「報復か?」と聞かれて「そうです」と答えるような者はいないので、まあテンプレートの反応ではある。
結局、資金繰りが悪化し、2018年5月に福島乳業は事業を停止。
倒産に追い込まれた。
東北生乳販連は「債権回収ができず残念」といったスタンスだが、その言葉を鵜呑みにはできないと感じた。
債権回収の専門家は東北生乳販連の一連の対応について、独占禁止法の「不公正な取引方法」にあたる可能性を指摘している。
債権回収にはある程度の期間を要するので、担保設定からわずか3カ月で回収に走るのは、最初から債権の回収よりも福島乳業を潰すことが目的である可能性が高いと分析している。
福島乳業の社長は、現在、事業再建のために奔走している。
今回の件を糧に、次は圧力を跳ね返す力を持った企業となって再生してほしいものである。
酪農家の利益を守らない農協
独禁法違反で注意を受ける農協
前回も農協への出荷を止める酪農家に対して、あからさまな報復(借金の一括返済や資料購入価格の引き上げなど)を行っていた阿寒農協。
前回も問題になっていた賦課金に関して、酪農家が公正取引委員会に訴えた。
この酪農家は、生乳の出荷先を農協から全量MMJへ変更をした。
農協に出荷しないにも関わらず、農協は、生乳1kgあたり0.5円の賦課金を徴収するというのだ。
前回、この酪農家は、月に200トンの生乳を出荷していたので、毎月10万円、年間120万円を農協に払わなければならなかった。
しかし、2017年10月、公正取引委員会は、この賦課金について、阿寒農協の行為が独占禁止法第19条の「優越的地位の濫用」の規定違反につながるおそれがあると注意を勧告。
阿寒農協は賦課金の徴収を一時停止した。
MMJへ乗り換える酪農家に非協力的な農協
MMJに出荷を切り替え、収入が増えた酪農家の例を見て、多くの酪農家が出荷先をMMJに変更し始めた。
2018年4月に法律が変わり、MMJが生乳の出荷先として指定団体と同等のものとして国に認められたことも追い風に。
それに合わせて、出荷先をMMJに変更しようとした酪農家は、農協との関係悪化を避けるため、一度農協に生乳を出荷し、農協からMMJに生乳を販売するという方法を農協に申し入れた。
しかし阿寒農協の対応は、系統機関(ホクレン)以外には販売規定で出荷できないと拒否した。
規定と整合性の取れない農協の対応
阿寒農協の対応を受け、昭和38年に定められた販売規定を見直したところ、農協の主張とは整合性の取れない内容であった。
販売規定には、
「第7条 販売は、原則として系統機関に委託する。」とあるも、
「②系統機関外に販売するときは、あらかじめ確実な取引先を選定し、取引限度及び取引条件等を定めて行わなければならない。」とあり、系統機関(ホクレン)以外への販売もできると記載されている。
販売規定によりMMJに農協から販売できないという回答は、根拠がなく、また、ホクレンより買い取り価格の高いMMJに販売しない合理的な理由も提示していない阿寒農協の対応は、酪農家の利益を損なうものであり、背信行為にあたるのではないか。
この件について、上部組織のJA北海道中央会は取材を拒否しているため、農協の正式な回答は得られていない。
しかし、農協の対応を客観的に分析すると、東北生乳販連と同じく、MMJとの取引を好ましく思っておらず、それに対する報復措置であることはうかがい知れる。
バターは安くなるのか?
農協、生乳販連という既得権益を持つ団体からの圧力もあり、MMJの生乳を買い取って加工をする乳業メーカーは前回見つかっていなかった。
MMJは自社工場の建設に着手しており、3年後から自社工場でのバター製造を目標として準備を進めている。
バターの製造コスト
国内のバター加工コストは生乳1kgあたり23円ほどかかる。
アメリカでは6.5円という数字が資料に書かれていた。
MMJはヨーロッパから最新機器を導入し、1kgあたり10円ほどのコストで製造できると試算している。
7月に協力会社に製造してもらったバターの試行販売を実施した。
その時の販売価格は100g150円(税別)。
同量の国産バターの販売価格は約250円なので、6割の価格に抑えられている。
実際に量産化された場合、価格が変わるとは思うが、他社よりかなり安く供給されるものと思われる。
3年後が楽しみである。
まとめ
昨年の6月放送分で、ホクレンの幹部のバター生産量抑制発言に批判が集まったため、今回、ホクレンや農協、生乳販連側のガードは固く、コメントすることはなかった。
しかし、ノーコメントであることが、ある意味後ろ暗いところがあるともとれるので、語らずともその姿勢は示しているともいえる。
中傷であるとの抗議も前回あったが、実際に報復を受けている酪農家や乳業メーカーがあり、声をあげている。
そんなつもりはないという反論が出てくるだろうが、つもりはなくとも(あっても公言はできないだろうが)実際に報復になっているのであれば、それは問題である。
特に農協は酪農家の利益を損ねていることに対して、合理的な反論の余地がなく、また明らかに職務を果たしていないので、組織としての存在意義が問われる。