ガイアの夜明け15周年シリーズ企画
ニッポン転換のとき 第三弾
再び、巨大規制に挑む! ~「バター不足」さらなる闇~
昨年11月にも放送した農協がバター価格を高めに誘導していると言う特集の続編。
バターは本当に足りないのか?
兵庫県内の洋菓子店の例
国産にこだわり、北海道の牛乳、北海道のバター、北海道の生クリームを使い続けてきたが、2年ほど前の夏からバター不足が深刻になり、品質の良い国産バターが手に入れづらくなってきた。
国産の代わりにフランス産バターなど輸入バターを使用している。
しかし品質の良いものは価格が高く、300円台でケーキを提供している店としては手の出ない価格になってしまっている。
海外産バターの現状
フランス産バターの場合、現地での価格は1キロ約600円だが、日本に輸入されると2,000円以上になってしまう。
この原因としては、海外産バターの輸入を独占的に取り扱っている農畜産業振興機構(エーリック)の存在がある。
エーリックは入札で最も安い価格をつけた業者からバターを買っている。
しかし販売する際は、入札で最も高い値をつけた業者にバターを販売している。
これによりバターの価格が釣り上げられている。
この措置は安い海外産によって国産が値崩れするのを防ぐ目的があるという。
バターは余っている?
国内の入札業者によると、海外産バターは実は買い付けを行いすぎて大量に余っている状態なのだという。
2016年エーリックが仕入れた海外産バターの量は17,000トン。
エーリックはバターの販売で約82億円の利益を得た。
ちなみにエーリックの理事長は農水省出身の元官僚。
役員全体では、10人中5人が農水省OBや出向者が占めている。
ここにも天下りの利権が…。
テレビカメラでの取材を断るところにこの団体の後ろめたさが垣間見える。
農水省はバターの価格や流通量に関しては不安が解消されているという認識であるが、近年、バターの小売価格が高騰しており、この10年で4割近く上昇している。
指定団体以外の選択肢としてのMMJ
酪農家が搾乳した生乳は指定団体が買い取り、そこから乳業メーカーに卸される。
指定団体は全国に10団体あるが、そのすべてが農協である。
なお生乳を全て指定団体に売った酪農家だけが補助金を受け取ることができる仕組みになっている。
これにより、実質指定団体以外に生乳を売る先が存在しない状態が続いていたが、ミルクマーケットジャパン(MMJ、本社群馬県伊勢崎市)が指定団体よりも高い値段で生乳を買取り、乳業メーカーに指定団体よりも安い価格で販売するということを始めた。
MMJは小さな事業所で社員4名で運営しているため、人件費などを圧縮し、酪農家からの買取価格を高く設定できる。
MMJに出荷することで、酪農家は売上が大幅にアップするという。
出荷先をMMJに変更した酪農家
農協からMMJに出荷先を変えようとした酪農家は、昨年の放送でも紹介されていた。
その際、農協への借金の全額返済と今後の飼料購入価格の引き上げなど、明らかに制裁措置と思われる条件を出していたが(その後、この条件は撤回)、その後もかなり問題があることをしている。
農協の総会で、生乳を農協に卸す際、賦課金として、キロ当たり0.5円徴収するという謎の制度を新設。
農協からMMJに出荷先を変更する酪農家は、農協に出荷しないにも関わらず、MMJに出荷した量に対して農協が賦課金を徴収するということに反発。
確かにこれだと農協は何もしないで金を徴収することになる。
この酪農家の場合、月に約200トン出荷しているので、月10万円。
農協は年間120万円の不労収入を得る。
なお、別途組合費を徴収している。
前回の放送では組合費だけで月10万くらいとのこと。
ホクレンのMMJへの対抗措置
昨年末、ホクレンが生乳買取価格をキロ当たり2.6円値上げするとの通達。
これまでホクレンはキロ平均88円で買い取っていた。
MMJは92.5円で買い取っていたが、これにより価格差が、1.9円まで縮まり、MMJに卸す旨味が以前より無くなってしまった。
これは露骨なMMJ潰しといえるが、ホクレンからすれば、組合員の離脱を阻止するための措置なので一概に悪いとはいえない。
しかしMMJがなくなったら、また買取価格を下げるのではないだろうか。
なお、キロ当たり2.6円上昇すると、年間1000トン出荷する酪農家の場合だと、収入が260万円増えることになる。
先の酪農家の例だと卸値は約600万増えるが、賦課金の120万があるので、このまま農協に残ったとしたら、前年比500万程度の売上増となる。
MMJに切り替えた場合、前年比1080万円増となるが、120万円の賦課金を差し引くと約960万円の売上増。
やはりMMJに移る方が収入は増える模様。
バター不足解消のためのMMJの取り組み
MMJはバター不足を解消するために、仕入れた生乳をバターに加工し、販売する道を模索している。
バター加工業者にあたるも、MMJと取引をするなら生乳を卸さないという指定団体の圧力により、引き受けてくれるメーカーが見つからない事態が続いている。
では、MMJからすべて仕入れればいいのでは?となるが、MMJの出荷量は現状まだまだ微々たるもので、指定団体から切り替えて事業が継続できるほどの規模ではない。
MMJは、オーストラリアのコンサルタントと協力して、自前で工場を作りバターの製造に取り掛かる準備を進めている。
実現すれば安くて質の高い国産バターを供給できるようになるとMMJは考えている。
バター価格高騰の根本原因
乳業メーカーでも指定団体からの仕入れにより弊害が起きている。
群馬県のある乳業メーカーでは、指定団体から仕入れた生乳を使い、高級バターを作っている。
120グラム488円と、通常の約2倍の価格のバターを作っている。
これならば儲けが多いのではと思うが、実は赤字なのだという。
原因は仕入れ値にある
そもそも生乳を指定団体から購入する際は、飲料用、バター用、チーズ用など用途別の乳価が設定されている。
例えば飲料用は1キロあたり117円、バター用は1キロ75円と加工用だと安く仕入れることができる。
これは乳製品の安定供給のためのシステムだが、指定団体は飲料用でしか卸さないというのだ。
仕入れ値が50%高いのであれば、バターを作っても安くは売れない。
なお、バター200グラムを作るのに必要な生乳の量は約4.5リットル(明治)とのこと。
加工用なら約340円だが、飲料用だと約520円。
大量仕入れでコストダウンしていても現在のバターの価格が高いのは仕方ないと思わざるを得ない。
他に競合する組織がないため、このような強気な姿勢に出ているようだが、そもそも用途別乳価は国が決めたものなのだから、それに沿わない販売方法はかなり問題があるのではないか。
なお、関東地方で生乳を販売している関東生乳販売農業協同組合連合会の会長は用途別乳価での販売が行われていないことについて、ゼロとは言えないとしながら、「飲料用」の方が高く売れるのだから、有利な価格を選ぶのは売る方としては当然だ、と制度を無視することを否定しなかった。
利益を追求することは否定しないが、制度を歪めている現在の状況は是正すべきかと。
関東生乳販売農業協同組合連合会は従業員が50人にも満たない組織だが、取り扱い高が約1300億円。
すべて飲料用価格で売っているとしたら、制度を無視して不当な利益を上げていると糾弾されても仕方ないのではないか。
ただ、組合側からすると、加工用として低コストで仕入れたものを、利益率の高い飲料用として販売される恐れがあるという考えもあることは想像できるが、全量飲料用価格で卸すのは問題がある。
まとめ
農家を保護したり、煩雑な販路開拓などの業務を農協が各農家に代わって行っていることは否定しない。
しかし、競合がない状況の中で、あまりに自らの利益にのみ固執し、本来の役目から組織の在り方がずれてしまっているのではないだろうか。
農協側の言い分があまり紹介されていなかったが、農家の保護とはいえないようなことが行われていることも間違いないように思える。